『おもいで草々』 2話

【父の手】
現在 “東京都” と呼ばれているが、“東京府” であった頃の話。
池袋駅の西口から西北に桜並木があった。
食品・雑貨・文房具・パン屋等の店がならんでいた。
その先に府立豊島師範学校(現教育大学)があって、附属小学校が併設されていた。
この小学校に入学するには入試なるものを受けなければならない。
どんなことが待ち受けているかも知らない私は、父に手をひかれ(タータンチェックのワンピース姿で・・)校門をくぐった。
遊びのような運動能力テストと、簡単なメンタルテストだったようだ。
何人かの小父さん(おじさん)の質問に答える。
最後に「お父さんのお仕事は?」とたずねられ、即座に“美術家・絵描きさん” 等の言葉が出てこなく、「粘土で作ったものを石膏にしたり、絵を描いたりするの」と説明したことであった。
あのとき面接して下さった小父さんが、入学したら私共1年生女子組の担任であった。(昭和5年の春)
どこに行くときも必ず手をつないでくれたのは、母でなく父であった。
ファザコンの芽は、この頃から出始めていたようだ。

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